『借りぐらしのアリエッティ』(2010年)で同年邦画興収第1位、『思い出のマーニー』(2014年)で第88回米アカデミー賞長編アニメーション映画部門にノミネートされるなど、国内外で高い評価を得る監督・米林宏昌。スタジオジブリ退社後の第一作目として、満を持して発表する長編アニメーション映画が『メアリと魔女の花』です。
原作は、『魔女の宅急便』や『ハリー・ポッター』誕生以前の1971年、イギリスの女性作家メアリー・スチュアートにより書かれた児童文学「The Little Broomstick」。米林監督が最新作に選んだ題材は、かつて師である宮崎駿監督が選んだ題材と同じ「魔女」です。
きっかけは原作のある台詞に、プロデューサーの西村義明が魅了されたことでした。「この扉を開けるのに魔法なんか使っちゃいけない。どんなに時間がかかっても、自分の力でいつもどおりに開けなきゃ」。
他の魔法文学とは一線を画し、“魔女”や“魔法使い”を扱いながらも、持ちえた魔法の力に頼らずに歩もうとする少女・メアリ。それは、ジブリという強大な魔法を失くしてなお、ひとりのアニメーション映画の作り手として、映画を作り続けることを決意した米林監督自身と重なります。
監督・米林宏昌が最も得意とする精緻で美しい背景美術と、圧倒的なアニメーションの数々。ジブリ人生約20年で培った技術と志のすべてを賭した、あらゆる世代の心を揺さぶる夏のエンターテインメント超大作『メアリと魔女の花』が誕生します。
主人公は、赤毛にそばかすの少女・メアリ。明朗で快活、天真爛漫。だけど、不器用で毎日に不満を抱えているメアリが、禁断の“魔女の花”との出会いをきっかけに奇想天外な大冒険に巻き込まれていきます。
魔法による“変身”を遂げ、一夜限りの魔女になったメアリは、天才的な魔女の力を持つ少女として褒め称えられます。しかし、それは単なる仮初めの力でしかありませんでした。大切な人たちとのたった一つの約束を守るため、メアリには真の旅立ちが待ち受けますが、そのとき、彼女が持ちえた魔女の力は、跡形も無く消え失せてしまうのです。
「アリエッティ」で運命に翻弄されながらも、新たな地へと出立する少女を描き、「マーニー」で孤独と向き合いつつ、次の一歩を踏み出すヒロインを描いた米林監督。映画の主人公たちに「生きる勇気」を託してきた米林監督が、本作では、魔法を越えた先にある“勇気”をニューヒロイン・メアリに託します。
日常とは舞台を変えた異世界で、メアリと共に野を駆け、空を飛び、雲の向こうを旅するような、楽しくも、怖くもあり、ドキドキ、ワクワク、ハラハラする冒険の数々。めくるめく大冒険のすえに、魔女の力を失ってしまったメアリに残されたのは、一本のほうきと小さな約束。そのとき、メアリは、自分の中にあった本当の力に気づくのです。
主人公のメアリの声を演じるのは女優、杉咲花。米林監督の前作『思い出のマーニー』では第三のヒロイン・彩香役を好演し、今年の第40回日本アカデミー賞他、各映画賞を総なめにした若き実力派が、10代最後に、喜怒哀楽豊かなメアリを演じます。
そして、“神木、ふたたび。”メアリと冒険を共にする少年ピーター役に『借りぐらしのアリエッティ』以来、米林作品に2度目の出演となる神木隆之介。気立てが良く心優しい少年を演じます。そして、本作でもっとも感情の起伏が激しく難しい役どころ、エンドア大学の校長、マダム・マンブルチュークを威厳ある存在感で演じた天海祐希。魔法科学者として不可解な風貌のドクター・デイ役に個性的かつ絶妙な芝居で魅せる小日向文世。力強い眼差しに憂いを秘めた赤毛の魔女を満島ひかりがミステリアスに演じきり、佐藤二朗が演じたほうき小屋の番人フラナガンは、子どもから大人までが好感を持てる愛すべき登場人物になりました。赤い館の庭師として、物静かだが貫禄ある演技で魔女の花の存在を知る奥深きゼベディを生み出した遠藤憲一。赤い館のお手伝いさん、バンクスはユーモアを交え大らかに渡辺えりが演じ、メアリの大叔母、シャーロットは大竹しのぶが演じ、人生の深みと慈しみを見事に表現しています。日本映画界で唯一無二の存在感を放つ豪華な俳優陣が、本作に命を吹き込みます。
主題歌を歌うのは、ビッグアーティスト「SEKAI NO OWARI」。魔法は いつか解けると 僕らは知ってる──。その一節から始まるこの歌は、2016年末の出会いから始まり、SEKAI NO OWARIと米林監督、西村プロデューサーとの6人による、度重なる会話と往復書簡のやり取りの末に生まれました。近くに存在していたかの様に懐かしく、それでいて強い生命力を放つ渾身の一曲は、SEKAI NO OWARIにしか書けない目線で「雨」をモチーフに人生と成長を描く歌。子どもから大人まで、あらゆる世代が口ずさめる、まさに夏に相応しい映画『メアリと魔女の花』主題歌の誕生です。
そして、映画の冒頭からエンディングまで異彩を放つひとつの楽器が存在します。それが、打弦楽器ハンマー・ダルシマーです。映画全体を貫く基調となる民俗楽器を求めた西村プロデューサーは、民俗楽器に詳しい高畑勲監督に相談。高畑監督からハンマー・ダルシマーの存在を教示され、この楽器を「メアリ」の映画音楽の基調楽器に据えることを決めました。村松崇継氏が奏でる劇中音楽とSEKAI NO OWARIが奏でる主題歌に通底するハンマー・ダルシマーの音色は、映画で描かれる〈驚き〉と〈歓び〉、〈過ち〉と〈運命〉そして、〈小さな勇気〉を象徴します。この映画音楽のために来日した世界最高の奏者と評されるジョシュア・メシックによる神秘の演奏にご期待ください。
スタジオポノックの創設と時を同じくして、ひとつの美術スタジオが誕生しました。スタジオジブリで数々の名作に美術監督として携わってきた男鹿和雄氏、武重洋二氏をアドバイザーに迎え、ジブリ作品等の劇場用アニメーション映画で背景の制作や美術監督を務めてきた11名の絵描きによる、背景美術スタジオ「でほぎゃらりー」です。ジブリ制作部門解散後の2015年、世界が賞賛したスタジオジブリの手描き美術が消えてしまうことに危惧した、ドワンゴ・川上量生氏、カラー・庵野秀明氏、スタジオポノック・西村義明氏の3者によって設立されました。
美術監督の久保友孝を中心に、手の国・日本が生み出した世界最高峰の背景美術が、「メアリ」のファンタジー世界、その光と影を描きます。
米林監督の最新作に、ジブリ卒業生とアニメーション内外の新たな才能が集いました。
スタジオジブリの志を受け継ぐべく歴代のジブリ作品で活躍した才能たちが集結した新生「スタジオポノック」。その代表もつとめる西村が、プロデューサーとして『思い出のマーニー』に続き米林監督と二度目のタッグを組みます。
脚本は『かぐや姫の物語』の坂口理子。映画音楽は『思い出のマーニー』以来、米林作品二度目の参加となる村松崇継が奏でます。また、ジブリ作品の多くを手がけてきた作画監督の稲村武志、井上鋭、山下明彦を中心に、日本最高峰のアニメーターたちが集結。色彩設計は、“ジブリの色職人”故・保田道世の教え子である沼畑富美子。映像演出にスタジオジブリ宮崎駿監督作のすべてを手がけた奥井敦が担当します。
そして、美術デザインは、名立たるミュージシャンのPV美術を担当し、一昨年はマドンナのプロモーションビデオも手がけたプロダクションデザイナーの今井伴也。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』全作を手がけた福士享が撮影監督を務め、“ジブリ”と“エヴァンゲリオン”の邂逅で、さらなる進化を遂げます。
高畑勲、宮崎駿両監督から学んだスタジオジブリ卒業生と、新たな才能たちの出会い。
本作品に覚悟と決意を注ぎ込み、最高の長編アニメーションに挑みます。